レオとジョリーとポン

私が引越し業者でエプロンサービス(梱包作業)のアルバイトをしたときのことです。

その日の午後出発というお客様の引越し荷物の梱包でした。古い一戸建てのその家につくと、まず犬小屋から真っ黒な犬が出てきてワンワンご挨拶(吠えていました)してくれ、玄関を開けると何とも言えない動物臭が。上がらせてもらってわかりました。猫がたくさんいたのです。後にわかったのですが、その家にはなんと全部で6匹の猫が住んでいました。

お風呂場の前になる廊下には猫砂の箱が2つ並べて置かれていて、なんとそれとは別に、台所の勝手口のところにも、猫砂の箱が。私はペットのいる引越しは初めての経験だったので、まずは自分にできるところから作業を開始しました。キッチンで、食器などの壊れ物を梱包していると、先ほどご挨拶したご夫婦の口論が聞こえてきました。

「まだ可哀相よ。大丈夫よ直前になったらちゃんと準備するから!」「そんなこと言って、レオもジョリーもポンも病院行くだけで大騒ぎじゃないか。そんなにすぐに捕まるはずないだろう!」

どうやら、引越しのために猫をケージに入れるらしく、今から入れて準備した方が良いというご主人様と、狭くて可哀相だから、ぎりぎりにしたらいいという奥様の口論のようでした。

1時間後、ほぼキッチンも終わり、他のアルバイトスタッフも着々と梱包をすすめていたところ、猫の「ぎゃあっ!!」という叫び声と「ほら捕まえた。はい、良い子ね、ちょっと我慢ね」と言う奥様の声が聞こえてきて、その後、脱走した猫がダダダーーーっとリビングにいた私たちの足下を駆け抜けていきました。あと30分ほどでトラックは到着し、荷物を積み込み始めるという時間です。

「ねえ!ジョリー捕まえてきて!」「だから言っただろう!」またご夫婦の口論。猫のうち1匹はキッチンに積み上げてある段ボール箱の隙間に入り込んでしまいました。ご主人が来たので私が「箱、ずらしますね」と箱を押してずらすと、猫が慌ててまた、全速力で走り出しました。「ジョリー!」追うご主人はあまり必死という感じでもなく、私たちも、最後はきっと猫に慣れている奥様が捕まえるのだろうと思って作業をすすめていました。

私たちの作業はトラック到着予定時刻の10分前には終わり、ご挨拶をして帰ろうとしたところ、ちょうどトラックが入ってくるのが見えました。作業員さんたちがすぐに下りてきて、玄関の引き戸を開けっ放しにしたままご挨拶しているようでしたが、「閉めて!!猫が出て行っちゃうから!」という、奥様の大きな声が聞こえました。

そう、出発時間になってもまだ、ケージに入っていない猫がいたようなのです。作業員さんたちは困ってしまいます。だって、ひとつの荷物を出すたびに戸を開け閉めしていたら、とても時間がかかってしまうし、大きな荷物を持っていたらそれは不可能に近いからです。

私と一緒に帰ろうとしていた大学生のエプロンサービススタッフが「私、手伝ってきます。実家のうちでも猫、飼ってたから」とその家に引き返しました。なんとなく悪いような気がして、私も一緒に手伝うことにしました。

猫はとにかく、狭い隙間に逃げ込むので、引越しの段ボール箱が積み上げてあるこの家の中では、隠れる場所だらけでした。私たちは段ボール箱を動かしたり、逃げ道をふさいだりと、最初は本当にお手伝いという感じでしたが、大学生のスタッフはどんどん本気になり、先ほど外して、まとめて袋に入れたカーテンを出してきて、猫が逃げる方に罠を作り始めました。罠と言っても、猫がレースのカーテンに絡んでいる間に捕まえるという程度のモノでしたが、これが大成功。

私たちが猫の捕り物をしている間、他のエプロンサービスが、掃き出し窓のところで猫が出ないように見張りをし、作業員さんたちはそこから荷物をできるだけ搬出して、積み込みを始めていました。

この大騒ぎの間、そとの犬もずっとワンワン大騒ぎで、おそらくご近所迷惑だったことでしょう。

猫のケージは、病院に行くときのためのものと、古いモノが二つだけしかないため、元気な猫は、大きな洗濯用ネットに入れられていて、ほんとうに、猫にとっても人にとっても、そしておそらく外の犬にとっても大変な引越しだっただろうと思います。

古い家具が多いため、トラックの中で害虫駆除剤をつかうというサービスを承っていましたので、どの動物も絶対にトラックに乗せることはできず、ご夫婦の自家用車で運ばれたようです。