作業員の武勇伝、教えてあ・げ・る

私が引越し業者でエプロンサービス(梱包作業)のアルバイトをしたときのことです。

エプロンサービスというのは、どちらかというと、荷物を梱包して、運ぶ前の状態にするお仕事の方が多く、引越し先のお宅での開梱作業というのは、とても少ないです。なぜかというと、新居での家具の配置や棚などの使い方は、やはりご本人が決めていった方が使いやすく、他人が決めても二度手間になることが多いからなのです。

そんな中で、珍しく開梱作業のお仕事がありました。ある県営住宅が新しくでき、「一斉入居」と呼ばれる、入居しても良い最初の日の引越しでした。賃貸住宅に住んでいるとわかるのですが、家賃は最後、日割り計算で支払います。つまり、1日でも早く引越しをした方が、今の住宅に支払う家賃が少なくて済むのです。ご家族の賃貸住宅の家賃10万円だとしたら、1日で約3千3百円違ってくるのです。

県営住宅に申し込むには、所得制限もありますから、お金の有り余っている人というのは、当然ながらひとりもいません。ですから1日分でももったいないと、入居可能の「一斉入居」の日にほとんどの人が引越しをするのです。

私が開梱作業のお仕事で行った県営住宅は、新しいためエレベーターもついていました。5階建てで、35戸が入居するのですが、当日私が現場に着いたときにはすでに、引越し業者のトラックがずらりと並んでいました。初めての経験に、ワクワクしました。二人作業の日だったので、一緒にいたもう一人と、予定されていた部屋へ向かいました。4階の部屋でしたが、階段で向かいました。なぜなら、2台のエレベーターは行列待ちで、どの引越し業者も大型冷蔵庫や大きいタンスやソファなど、エレベーターで運ぼうとしていたからです。

「まだ荷物が入りきってないだろうから、ご挨拶だけして、どこかで待たせてもらおうね」と先輩に言われました。きっと、あのエレベーターの行列に、まだ自分たちの引越し業者の作業員がいると思い込んでいたのです。

ところが4階のお客様の部屋に着くと…。

なんと、荷物はすでにすべて運び込まれていました。入居するお客様は、初老のご夫婦でした。おそらく体力的に大変だからと、エプロンサービスを依頼したのでしょう。ご夫婦ともに口々に「あなたの会社はすごい」と褒めてくださるのです。

「他の業者がエレベーターに群がっている間、どんどん階段で運び込んでくれたの」
「段ボール箱程度なら、走るような速さで階段を駆け上がってくれた」
「大きなタンスも、二人で紐を使って肩からかけて、上手に運んできた」
「ベッドも、引越しの際にはトラックには枠組みごと乗せたけれど、そのままだとエレベーターを待つことになると判断して、一旦枠をバラしてそれぞれがさっと階段を駆け上がって持ってきてここで組み立て、マットも二人で持って階段で来てくれた」
「冬なのに汗びっしょり。それなのに気にもせず本当に一生懸命だった」
「もう引越しをすることはないと思うけれど、誰かに訊かれたら絶対にお宅の会社を紹介するわよ」
「おかげで他の人はまだ片付けもできないのに、うちは今日から快適に暮らせるから、ありがたい」

などなど。作業員さんたちがどれほど頑張ったかが、よくわかりました。私たちはその話を聞きながら、荷物を開梱し、どこへ片付けるか奥様の指示を仰ぎながら仕事をしました。

実は、トラックの作業員さんたちは、私たちエプロンサービスにとっては、ちょっとだけ恐い相手でもあるのです。時間内に梱包が終わっていないと、トラックに積み込むことができません。時間の配分をするのは、営業担当者なので、正確に言えば私たちの責任ではないかも知れませんが、梱包が終わらないのにトラックが到着してしまうというのは、かなり緊張する出来事です。クレームを避けたい作業員さんたちは、ときに無言で私たちの仕事を手伝ってくれるのですがその雰囲気は殺気立っていて、話しかけたりできる雰囲気ではなくて、だから私たちはすこし、作業員さんたちが苦手でした。

ところが、この武勇伝を聞いて、とても胸が熱くなり、作業員さんたちをカッコいいと思うようになりました。